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「おかげさま」

人間の宗教心は、見えない人間以上の大きな存在の働き方を“実体が生む「かげ」”としても感じ取りました。
見えない尊い方が、至るところにあらゆる場で人を包むようにして恵みを湧き出させる感じに、人はありがたさを覚えました。
その尊いお働きや恩顧に「みかげ」「おかげ」という語をあてることをしました。

その感じ取りの核になるものは、時代や文化を超えていつどのような人間存在の場においても息づいていると思われます。
現代の日本の人々がたとえば、「オーラ」とか「パワー・スポット」とかの言葉で感じ取っているものと近いのではないでしょうか。
『聖書』にも「陰」と表現するところがあります。

陽光の強く厳しい風土にあって「木陰」や「丘の陰」は、救済につながるほどの感じでとても大切なものだったでしょう。
この「陰」に「かばってもらう」「庇護される」ことが、人間を超えた存在による庇護を感じさせたのでしょう。

実人生に励むさ中、生活の展開が順調・好調であったおりとか、到達目標があって自分がそこに到達できたおり、あるいは厳しい危機的状況から抜け出せたおりなど、この「かげ」の保護や守りを感じることは多かったようです。
人々は、「おかげで」「おかげさまで」と言葉に表すようになりました。
見えない人間以上の方の働きを尊いものに感じ取り、それに感謝しました。

こうして「庇護される」「守られる」の面から始まり、その働きを「おかげで」「おかげさまで」と表し、さらにその「庇護」「守り」をもたらす存在そのものをも「おかげ」と表しもしたようです。
日本人は、宗教心の高潔な湧出の方向でもあるいは、生活に密着した身近かなところでも「おかげさま」を用いました。
日本の歴史のなかで「おかげ」を人間以上の尊い存在として表し、そのご威光によって抑圧感や束縛感から解き放たれるようとする動機が、国民に広く行き渡った歴史もありました。
「おかげまいり」というものでした。
この「おかげまいり」に多くの人々が共感し、行動に表し、群れをなして伊勢参りしたり、その他の名所旧跡訪問をしたりしました。
このような国民の多数の体験の積み重ねによって「おかげさまで」という言葉が、日本文化のなかに深く根付いたのです。

日本に息づいているこのような「おかげさま」の言葉の用い方は、私たちキリスト者もまた、先祖たちと同様に活かせます。
私が、よくしていただいた相手の人への敬意と謝恩の心。
そして人間以上の尊いお方からもよくしていただいたことに敬意をいだき、感謝する心――このような心を用意して「おかげさま」ということを増やしたいです。

私たちは確かに、多くの善意の人々の「おかげ」でよい生活をすることができており、さらに神様の「おかげさま」で、すべての善いことに恵まれているのです。
「おかげさま」という感じ取りの頻度が増すならば、人は神様との関係にいっそう前進します。
また、「おかげさま」という感じ取りの深まりが増せば、人は神様との関係にいっそう深まります。